というわけで、ここからはお三方へのインタビューをお送りします。
−−−本日は制作が大詰めでお忙しい中、ありがとうございます。では早速KAGAYAさんからお伺いいたしますが、「銀河鉄道の夜」を題材に、全天周3Dアニメーションを制作しようと思われたキッカケは何だったのでしょう?
KAGAYAさん(以下KAGAYA) 「銀河鉄道の夜」は突然テーマに選んだわけではなく、元々好きな物語だったんです。一番最初、小学校の低学年の頃に母親に読んでもらったのがキッカケなんですけど、それからとても好きになり、子供の頃は銀河鉄道の車窓の風景を思い描きながら何度も何度も読み返していました。そんな銀河鉄道の世界が大人になるにつれて頭の中に出来上がってきまして、いつかみなさんに見せられる形にしたいと思っていたんです。
−−−なるほど、銀河鉄道への想いは子供の頃からずっと続いていたわけですね。
KAGAYA 自分が思い描いていたものをいろんな形で表現したかったんです。まあ私は絵描きなので絵にして表現していたんですが、だんだんアニメーションにもするようになってきまして、その方がより現実感が出るといいますか、その世界に浸れますから。そんな時にそのアニメーションをプラネタリウム番組にしてみないか?というお話をいただきました。
−−−さらに一歩進んだ表現が出来そうだと。
KAGAYA ドーム上全部に映せる全天周の映像のお話だったので私も非常に興味を持ちましたし、完全にその世界にすっぽり包まれる形で作品をみなさんにお見せできると思いましてお引き受けしました。で引き受けてから3年…まあ2年半ですか、かかりましたけど(笑)。
−−−作品には素晴らしく美しい銀河鉄道の世界が広がるのですが、特に三角標を星に見立て、平原に星図と全く同じに配するという手法が非常に印象的でした。このアイデアは絵の銀河鉄道の夜シリーズの頃からお使いになられていたと思いますが、当初から今回のような3Dアニメーションに結実させることを念頭に置かれてのことだったのでしょうか?
KAGAYA いえ、星座の形に並んだ三角標を車窓風景として、低い視点から見たらどんな風に見えるのかなというのは初めからとても興味がありましたし、それをやって初めて銀河鉄道の風景が現れるのだろうと思っていました。10年前コンピューターの中でそれをやってみて、まさにこれだ!と。私の知る限りでは、そのような形で銀河鉄道の世界を画像として再現したものは見たことがありませんでしたし、賢治さんも文章としては描かれているのですが、ご覧になってはいないわけです。頭の中で想像されていたには違いないのですが。
−−−平面的にある星空こそが銀河鉄道の世界で、それを実現したかった?
KAGAYA その世界を見てみたいというのは、本当に自分の興味からなんです。「銀河鉄道の夜」の原作に描いてある風景はどんな景色なんだろう、自分が見たい、というのが一番のキッカケなんですよね。そしてその風景を自分で作り上げたときに「これは凄い!」と感じましたし、それをどんどん進めていって、全体のストーリーの風景を通して見られたならどんなに素晴らしいだろうなぁ、と思って10年間淡々と製作を続けてきました。
−−−10年の集大成なんですね。
KAGAYA そうですね、でも今回のドーム映像もある意味では一つの過程なんです。まだこの先がありそうな気がしているんですけれども、この段階では非常に良いものが出来たと感じています。ドーム空間に自分の作品が映し出されて、銀河鉄道の車窓の風景が流れたときには、もう自分でビックリしましたから(笑)。
−−−鳥肌モノ(笑)?
KAGAYA 最初にテストで投影したときに「うわぁ、本当に汽車に乗っているみたい!」という感覚を初めて味わえて、このままずっと映像を見ていたいな、と思ったくらいなんです。
−−−ところでジョバンニやカンパネルラといった登場人物達は映像には出てきませんが。
KAGAYA あえて映像化はせず、語りだけで構成しています。お客さん自身がジョバンニやカンパネルラになった気分で、車窓の風景を見て欲しい、そう思っています。
−−−見られる方の想像力に委ねている?
KAGAYA 賢治さんの原作でも、登場人物の表情や特徴については全く描写がないんですね。それは賢治さんが意図してぼやかして描いていると考えています。銀河鉄道というものがそもそもこの世のものではなく、現実の人が乗れるものではない。魂だけがそれに乗って天上世界へ行ける乗り物であり、いわば人物を“描けなかった”のではないかと思うんです。
北畠さん(以下北畠) この番組はそういった意味で非常に原作に近いのかな、と思います。自分で体感して、物語に入り込んで、想像するしかないんですね。対してTVやビデオなどのメディアはわかりやすさが特徴なわけなんですが、それらとの違い、プラネタリウム番組ならではのものが出せたのではないかと思います。私自身もとても楽しみなんですよ。
−−−なるほど、今後のプラネタリウム番組に一石を投じるものになるかもしれませんね。さて、玲さんはこのプロジェクトに参加されるにあたって、KAGAYAさんのような「銀河鉄道の夜」に対する思い入れというのがやはりあったのでしょうか?
加賀谷玲さん(以下玲) やはり小学校低学年の頃に最初に読んだのですが、その頃はあまり理解できなくて最後まで読めなかったんですよ(笑)。
−−−私も子供の頃は宮澤作品は苦手でした(笑)。
玲 けれど高校生くらいの時に兄がイラストを描いた本を出版したものをもらって、その時初めてしっかり読めたんです。すると読む度に毎回違うイメージ・世界が広がってきて。ですから今回の音楽も、見ている人・聞いている人のイメージを広げる手助けができるようなものを目指しました。
−−−やはり見る側の想像力がキーワードですね。
−−−KAGAYAさんは現在全ての制作をコンピューター上で行われていますが、筆と絵の具による制作から変更された理由は何でしょう?
KAGAYA 確かに以前は筆と絵の具で描いていました。しかし当時からコンピュータの能力が上がって、筆や絵の具を超える道具として進化するのを待っていたんです。ですから処理能力が上がり、大きなサイズ、たくさんの色を扱えるようになった時点で転向したんです。もちろん絵を描く人によって違うのですが、私にとっては手彩を遙かに超える道具です。もう手彩には戻れませんね。
−−−ではこの作品を作られるにあたって最も苦労された点を教えて下さい。
KAGAYA 苦労ですか・・・うーん、私自身楽しんで作っているのであまり思い浮かばないんですが(笑)。ただ作業的には、全天くまなく投影するために隙を見せられない点でしょうか。普通のフレーム付き映像でしたら、フレームアウトした後は適当で構わないんです。しかし360°の視野をキッチリと作り込むのは並大抵のことではありません。
−−−そうなるとチェックや調整も大変ですね。
KAGAYA ちょっとした間違いが一箇所でもあると、全て作り直しになってしまうんですね。一つのシーンを作り上げるのに八ヶ月もやり直したりとか。そこが苦労といえば苦労でしょうか。チェックもいろいろな方向を全て見なければならないので、一回では見切れないんですよ(笑)。
−−−玲さんも現在コンピューターで音楽を制作されていますが、元々はビートルズに触発されてこの道にお入りになったとか。
玲 中学生くらいの時ですね、もう衝撃を受けました。それからは一人でギターを弾いたり、唄ったり。バンドを組んだこともありますよ。
−−−その頃はどんな音楽を聴かれていたんですか?
玲 何でも聞いていましたね。やはり洋楽のROCKが多かったでしょうか。
−−−現在作られている音楽はROCKとはまた別の方向ですが、聴く音楽のジャンルも変わりましたか。
玲 今はクラシックばかり聴いています。大学生の時にピアノを習い始めて、それからクラシックを弾くようになるんですが、そこで素晴らしさを知りました。
−−−アルバム「Crystal Moment」を聴かせていただきました。とても綺麗なメロディがしっかりついていて、そのまま歌詞を載せれば歌い出せそうに感じた曲が多かったのが印象的でした。このアルバムでは一曲を除いてインストゥルメンタルですが、曲を作るときにボーカル入りかインストかというのは意識されますか?
玲 やはりボーカルものは「歌を作ろう」と思って作り始めますね。インストならインストのつもりで。メロディに印象が行くのは、私の場合まずメロディから作り始めるからかもしれませんね。
−−−さて今回の作品はKAGAYAスタジオさんの制作となりますが、全天周映像となりますと持ってきてそのままポンとかかるわけではありませんよね。満天さんでは今まで自社制作のソフトをかけてこられたと思うんですが、その辺のご苦労はいかがだったのでしょうか。
北畠 うーん、今までは苦労はいろいろあったのですが、今回は私自身そんなにしんどくはなかったんです。調整の過程などでもKAGAYAさんがいらっしゃって、ウチの制作チームが参加して試写するんですけども、見るたびにグレードアップしてるんですね。なぜこんな短い間にも新しい表現・映像が出来てくるんだろう?と不思議で。
−−−黙っていてもどんどん出来上がっていく?
北畠 通常は私が立ち会って「ここは色が」とか「ここの動きは」などとコメントを入れるんですが、今回は逆に言う必要がないな、と途中で思いまして。だから私は制作面では苦労していないんですよ。制作はKAGAYAさんと制作チームで着々と進行しているわけで、安心して・・・(KAGAYAさんの方を見ながら)大丈夫ですよね?
一同 (笑) (注:取材日は6月7日、試写会の1週間前)
北畠 そのかわり番組を盛り上げようと、違うところで頑張っています。毎晩のようにKAGAYAさんがいらっしゃって進めているのも知っているんですが、私は広報・宣伝などで外出していることが多く、あまりテストランを見ていないんですね。けれどそのあたりは最初のプランニングから非常に良く構成が出来ていますし、心配はしていません。私もKAGAYAさんの絵が大好きですから、少しでも多くの人に見ていただけるよう、走り回っています。
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