2006年6月14日、ここサンシャインスターライトドーム“満天”は、普段の営業日とは全く違う雰囲気に包まれていました。スーツに身を包まれたいかにもお偉いさんな人々、一見してクリエーター系のみなさん、そして多くの報道陣。受付を済ませ、華やかな中にもちょっとした緊張感を漂わす独特のムードの中をロビーまで足を進めると、咲き乱れるスタンド花の中に見慣れた絵が数点飾られています。特徴的なブルーのグラデーションが描き出すその世界は、これから目前で展開されるであろう幻想的な別世界への入り口。そう、今日はデジタルファインアーティストKAGAYAさんが手がけられた全天周3D映像によるプラネタリウム番組、「銀河鉄道の夜」の完成プレミアム試写会の日なのです。
試写会に先立つこと1週間前、我々は制作大詰めの中KAGAYAさん、音楽の加賀谷玲さん、満天の北畠さんのお三方にインタビューを行うことが出来ました。しかし正直言って、この作品を「ようこそ、星の劇場へ」の中で取り上げることが適当なのかどうかは、インタビューのアポを取った後も、そしてインタビューの直前でさえも一縷の迷いがありました。「ようこそ、星の劇場へ」はプラネタリウムをステージとするパフォーマーたち、というコンセプトで企画されています。もちろんKAGAYAさんは役者でもなく歌手でもなく、舞台で何か表現を行う方ではありません。別な見方をすれば「いわゆるプラネタリウム番組を今更採り上げてどうするの?」と考えることもできます。しかしその迷いはテスト投影を見て、一瞬にして払拭されることとなります。その理由は後ほど・・・。
さてMCの方から開会が告げられ、コニカミノルタプラネタリウム株式会社・今井社長からのご挨拶があった後、いよいよ完成試写の始まりです。軽便鉄道の色褪せた写真、そして宮澤賢治短編集「注文の多い料理店」からの一節で幕を開けたその後に、繰り広げられるのは紛れもなく「今まで見たことのない世界」です。光溢れる野原と川、その中を小さな蒸気機関車が美しい客車を引いて進んでいきます。決して引き返すことのないその線路を、ゆっくりと、しかし力強く。美しくも儚さ、切なさをのせたメロディーが映像と重なれば、そこにあるのはまさに宮澤賢治さんが文章で描いた「幻想第四次の銀河鉄道」・・・おっとっと、これ以上はぜひ上映館でお楽しみ下さい!(笑)
圧倒的な映像美と、美しいプラネタリウムの星とに心奪われていると、あっという間の40分間です。エンドロールが流れ、場内が明るくなれば満場から拍手が。余韻に浸る間もなく、トークセッションへと続いていきます。まずはナレーションを担当された女優の室井滋さんの登場。室井さんはドームで映像を見るのは今日が初めてだそうで、その美しさと迫力に圧倒されたご様子です。続いて制作のKAGAYAさんが紹介され、トークに加わります。完成試写を迎えられて幸せな気持ちで一杯であることの謝辞を述べられた後、室井さんとKAGAYAさんの絡みトークへ。KAGAYAさんの「銀河鉄道の夜」への想い、室井さんが学生だった頃のサンシャインプラネタリウムにまつわる思い出話(爆睡ネタ/笑)などが語られました。
その後メイキング&設定資料ビデオをドームに映しながらKAGAYAさんが解説。三角標や機関車などの資料紹介、岩手取材のお話、製作風景やナレーション録りの模様などが紹介されました。そして本日のスペシャルゲストは林風舎代表の宮沢和樹さんのご挨拶。宮沢さんは宮澤賢治さんの弟、清六さんのお孫さんにあたる方で、この作品を賢治さんと清六さんに見て欲しいと述べられました。また賢治さんは実は面白い方だった、などのエピソードをご披露。そうこうしているうちにトークセッションはお時間となり、フォトセッション(撮影タイムですね)、囲み取材などが行われ、盛況の内に幕となりました。
さて、この番組に興味を持たれた方にお伝えしておきたいことがあります。実はこの番組、原作の「銀河鉄道の夜」のストーリーが頭から終わりまで展開していくわけではありません。もし原作の物語をフル映像化したものを期待されて見に行くと、もしかしたら「違う」という想いを抱かれるかもしれないのです。さて、ではキーポイントはどこにあるのでしょう?
メイキング&設定資料ビデオの中で賢治さんの原稿が映し出されるシーンがあります。KAGAYAさんは「賢治さんの原稿の中に“要挿画”というメモがあったんです。私はこのメモを発見したとき“ああ、賢治さんも喜んでくれるだろうな”と思ったのです。」と解説されました。KAGAYAさんは子供の頃から自分の頭の中に描いてきた「銀河鉄道の夜」の世界を、ビジュアルとして具現化されてきました。静止画から動画へと表現手法が変わっても、KAGAYAさんの頭の中で走っている銀河鉄道をより具体的に伝えたい、という思いに変わりはないのです。そして賢治さんの決して平易とは言えない表現の文章で書かれた原作に取っつきにくさを感じる人に対して、美しいビジュアルを見せることにより「こっちへおいでよ」と手招きをする、これはまさに挿画の役割そのものと言えるのではないでしょうか。
冒頭で私が抱いていた迷いは、実際にテスト投影を見ることであっという間に解消されました。もしもこの番組が原作に忠実なダイジェスト版のようなものだったら、この迷いは消えなかったかもしれませんし、「ようこそ、星の劇場へ」ではなく、特別レポートとしてアップされていたかもしれません。しかしこれを単なるプラネタリウム番組ではなく、アーティストの表現手段としてプラネタリウムを用いたものと捉えれば話は単純、パフォーマー=画家、ステージ=キャンバスなのです。OK、何も悩むことはありません!そんな経緯でこのインタビュー企画はめでたく結実することとなりました。
というわけで次ページより制作のKAGAYAさん、音楽の加賀谷玲さん、そして満天の番組制作責任者・北畠さんのインタビューをお送りいたします。お三方の番組への想いが、少しでも多くのみなさんに伝わることを願っております。
(取材協力:コニカミノルタプラネタリウム株式会社)
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