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大人の科学Vol.09付録 マイスター組立のツボ

 

●よりシャープな星を求めて

大人の科学Vol.09 大人の科学Vol.09も増刷により随分と入手し易くなり、もう組み上げられた方も多いのではないでしょうか。もちろんそのまま作っても充分楽しめるのですが、本誌に書かれている改造記事に興味を示されていらっしゃる方も多いことでしょう。
  投影ドーム製作、日周運動機能追加、全天投影可にするなど、工作好きにはどれも楽しそうな記事が並んでいます。なかでも星像がよりシャープになるというEX電球への換装は、プラネタリウムとしての直接の性能アップにつながるということで、星好きはぜひチャレンジしたいところです。

 

●EX電球とは?

  EX電球とは業務用プラネタリウムメーカーの五藤光学研究所さんが、自社のプラネタリウム機器(EX-2・EX-3・E-5)用に作った特殊電球で、「EX用プラネタリウム電球」の通称です。この電球はピンホール式プラネタリウム用にフィラメントを小さくしている特注品となっています。
  EX電球換装のメリットは、何といっても星像がよりシャープになること。ピンホール式プラネタリウムの映し出す星像は使用する光源の形に左右され、マイスターのように一般的な豆電球を使用すると星像はフィラメントの形の三日月型(口の悪い人は芋虫のようと言います/笑)になってしまいます。この現象は投影距離(マイスターから星を映す壁・天井までの距離)が長くなるほど目立ってしまいます。
  もし最初からEX電球を使えればそれに越したことはないのですが、そうはいかない理由がいくつかあります。まずEX電球はほぼ手作りであり、普通の豆電球のような供給数は望めません。現在では作れる人が一人しかおらず、生産量は一日に数個とのこと。お値段は1個\700と、手作りということを考えるとお安いですが、\2,200の本には付けられませんね。
  しかも電球の定格が2V2A(付属の電球は2.5V0.5A)という特殊なものですので、乾電池2個を電源とするには配線途中にボリウム(可変抵抗器)を挿入して電圧を調整しなければなりません。重ねてこのボリウム自体が特殊な仕様(ワット数が大きい)で1個\1,350也、専門店でも品切れは珍しくないという代物。うーん、なかなかハードルが高いですね。

 

●そしてミニマグ電球

電球3種 今回は星像の比較用としてミニマグライト用の小型電球(以下ミニマグ電球)を用いたものも用意しました。 ミニマグ電球は小型マグライト用に作られたもので、超小型に作られています。外形に比例してフィラメントも小さく、入手も比較的容易で、インターネット上でもマイスター用に換装した報告が見られます。
  しかしミニマグ電球は通常のソケットに挿入する形状にはなっておらず、リードが2本出ているだけですから、マイスターに装着するには加工が必要です。今回はマイスターのソケットに直接装着できるよう、豆電球のガラスを割り(作業注意!)フィラメントを切ってそこに直接半田付けする方法を採りました。
 右の写真をクリックすると、大きな画像が表示されます。フィラメントの大きさを比較してみて下さい。

 

●設計と部品

 いろいろと面倒はありますが、それも工作の楽しみの一つ。というかやると公言した以上、すでに後戻りは出来ない状況だったりします(笑)。では大まかな設計に入ります。
  EX電球は電気喰いですし、乾電池よりはACアダプターを使いたいところです。しかし見せびらかし(笑)のためにはポータビリティも重要、ということで二電源仕様とします。ACアダプターは3V2Aのものを入手。また部品の実装ですが、本紙記事のような台座に部品むき出しで取り付けというのも少々見栄えが悪いですし、ここはプラスチックケースにまとめて収納することにしましょう。マイスター本体側は電球ソケットのみとし、それを台座部に設けた電源入力ジャックに直結します。
  ケースから外部に出る部品はACアダプターからの入力ジャック、電源の切替スイッチ(センターOFF)、ボリウムツマミ×2ヶ、マイスターへの電源供給プラグ(コードを直出し)、といったところでしょうか。
  またどうしてもボリウムが入手できない方や一般的な部品で作りたい方は、PWM方式の回路を起こすという方法があります。愛知教育大学学生により運営されている天文愛好会COREさんのWEBサイトでEX電球用PWM調光回路のPDFファイルが公開されていますので、これを参考にされると良いと思います。下記URLからenter〜main〜ハードウェアと進んで、自作プラネタリウムページの下部に回路図へのリンクがあります。
  ここまで仕様を固めたら簡単な回路図を書き、部品を洗い出して手配&入手します。EX電球は事前に動いていたので確保済み。ボリウムのメーカーは東京電音、品名は巻線ホーローボリウム、型番はRGY25A20R5です。入手先は秋葉原ラジオストア(ガード下)内、三栄電波さんから購入。ネット通販も可能なので、遠方の方は利用されると良いでしょう。

 愛知教育大学天文愛好会CORE http://phe.phyas.aichi-edu.ac.jp/~phoenix/
 三栄電波ドットコム http://www.san-ei-denpa.com/

 

●仮組みでトラブル?

初期の仮組み 部品が揃ったらすぐに配線にかかりたいところですが、まずは仮組みする事をお奨めします。特に今回のように電圧調整が必要だったり、失敗すると一発でダメになる部品(電球)がある場合はなおさらですね。この回路自体は部品数も少ないので、ワニグチクリップ付きコードを使い本紙記事通りの回路で配線してみます。
  配線したら本誌にある通りに電圧調整を行います。調整用ボリウムを最大(0Ω)、調光用ボリウムを最小(5Ω)にし、調整用ボリウムを回してEX電球にかかる電圧を2Vにすると書いてあります。しかしここで問題発生!この状態でEX電球にかかっている電圧は0.2V程度で完全に消灯状態。調整用は最大だから絞る方向にしか調整できません。仕方なく調光用ボリウムを最大にすると……それでも1.5Vまでしか上がらない???

 

●トラブルシュート

半田付けによる仮組み まずEX電球の個体差の可能性を考えましたが、予備のEX電球に変えても同じ(というかちょっと悪化/苦笑)。では電流の供給能力の問題?というわけで電源をACアダプターから供給するように変更すると…やりました、2.0V出ます!が、ボリウムは両方ほぼ最大。これではボリウムを2ヶ並べた意味がありませんねぇ。あとはワニグチクリップの接触抵抗くらいしか考えられませんので、仕方なくバラック状態で半田付けしてみることに。
  うーん、若干改善と言えなくもないですが、誤差と言えなくもない(笑)。これではボリウム一個がほぼ無駄なので、今回はボリウム一個で済ませることにします。
  ここでお断りしておきますが、これは学研さんの記事がどうこうという話ではなく、EX電球や特殊なボリウムといった比較的手作りに近い部品の製造誤差に依るものと推測されます。というわけで今回手元に揃った部品の場合は記事通りの動作にはならなかった、ということで先に進みましょう。

 

●ケース加工

配線後のケース ケースは一般的なプラスチックケースで、入手しやすいものを選びます。今回はタカチ製SY-150Bという製品、大きさがW149×H54×D170(mm)のものを使いました。パネル部はアルミ製で加工も楽でしたが、ボリウムが思ったより大きく、高さ方向がギリギリでした(汗)。
  ケースのパネルに固定用の穴(ボリウムシャフト用6Φ、ボリウム固定用3.5Φ×2、電源切替スイッチ用6Φ、DC INジャック用8Φ、DC OUTケーブルブッシング用8Φ)を開け、それぞれの部品を取り付けます。続いてケースの底面側に電池ケース取り付け用の穴を開け、ネジとナットで固定します。
  固定すべき部品が固定できたら配線です。配線はこちら(PDF形式)を参考にして下さい。今回は回路に最大2A流れるというので、電線は少々太めのもの(0.5スクエア)を使いました。電球ソケットの配線だけはバラせなかったのでそのままですが、EX電球使用後も電線が熱を持つようなこともないのでしばらく様子を見ることにします。
 さてボリウムを一つにしたので、このままでは絞りきりの状態では点灯しません。そこでボリウムと並列に抵抗をかませて、絞りきり状態でも電流を流してやることにします。ここでは手持ちの25Wセメント抵抗2Ωと2.7Ωを両方とも並列に挿入しました。この辺は電球の明るさとの兼ね合いで仮組み時に決定します。

 

●架台加工、配線、点灯

配線後の架台 架台側はベース部に8Φの穴を開けてDCジャックを取り付け、既存の回路とDCプラグ/ジャックを差し替えることにより、EX電球使用とその他の電球使用を切り替えます(右の画像をクリックすると大きな画像がご覧になれます)。
  配線が完了したら、豆電球を装着する前にスイッチの動作や各部の電圧などを確認しておきましょう。万一回路にショートがあれば、最悪は発火です。どんなに回路が単純で配線に自信があっても、チェックは必ず行って下さい。
  チェックが終わればいよいよ点灯です。接続を確認、ボリウムを最小(左一杯)にし、電源を投入します。

 

●星像の比較

 ではその違いを画像でご覧下さい(クリックすると大きな画像でご覧になれます)。

 

  良い星像   崩れた星像
標準豆電球 星像良〜豆電球   星像不良〜豆電球
       
 ミニマグ電球  星像不良〜ミニマグ電球   星像不良〜ミニマグ電球
       
EX電球 星像良〜EX電球   星像不良〜EX電球


 それぞれ最も星像がよく見える位置、崩れる位置を確認し、その方向に同じ恒星面を合わせてなるべく同じ構図になるように(撮影距離と投影距離はほぼ同じ約1.1m、ただしズームが少々バラついている)撮影しました。最も大きな星はわし座アルタイルです。露出は全て感度ISO200、シャッタースピード10秒、絞りF3.5で固定です。ピントは明るい状態で事前に合わせ、マニュアルフォーカスに切り替えて変わらないようにする、いわゆる置きピンです。ですから画像のシャープさはそのまま星像のシャープさに比例しているものとお考え下さい。
 さて結果は一目瞭然ながら意外な結果になりました。星像のシャープさはミニマグ電球が抜きん出ています(形は三日月型なのは明らかですが)。逆にEX電球はお世辞にもシャープとは言えません。しかも形は良い方向でリング状、崩れる方向ではなんとフィラメントの巻きまで確認できます。これは許容できない方も多いのではないでしょうか?

 

●適材適所で

 EX電球はもともと五藤光学製EXシリーズ用です。EXシリーズは対応ドーム径3〜5m。よってマイスターより恒星球が大きいのではないかと思われます。光源と恒星球の距離が小さいと、それだけ光源の形は顕著に映りますよね。もしかしたらEX電球はマイスターに使うには向いていないのかもしれません(あくまで想像ですが)。
 今回の結果で判断する限り、マイスターの星像をシャープにしたいのであればミニマグ電球を使用されることをお奨めします。マイスター自体の加工も不要です。ただし今回採った豆電球のガラスを割る方法は、どう考えても万人向けではないですねぇ。フィラメントの足に半田付けするのも難易度が高いです。少なくともお子さんは絶対にやらないで下さい!この辺が解消されれば……良いアイデアをお持ちの方はぜひご一報下さいね、よろしくお願いいたします。

 

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(記:小林道夫)


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